地獄の底でハッピーエンドを

言葉を取り戻すために

地方都市のスタバから舞浜へ

金欠の時ほどスタバのお世話になりがちだ。

なぜかというと、財布の中に現金がないから。現金はなくても、いつか浮かれて多めにチャージしたスタバカードの残金はあるから。


11月の頭からはホリデー限定メニューが展開されていた。私はジンジャーブレッドラテを注文した。

このドリンク(スタバ用語ではドリンクはビバレッジというらしいが、ここは便宜上ドリンクでいい)は11月〜12月25日には毎年売られている。こいつを飲まないと私のクリスマスは始まらない、と言っても過言ではない。夏の屋外で飲むプラカップ入り生ビールに匹敵する風物詩だ。


そろそろ図書館に返却しないといけない本があるから読もうと思い、テーブル席につく。店員とは極力言葉を交わしたくない私がわざわざ、「マグでのご提供でもよろしいですか?」を断ってまでホリデーデザインの紙コップに淹れてもらったから、蓋を開けて写真を撮った。シナモンだかジンジャーだか解らないが、スパイスのパウダーの香りがふわっと漂った。冬の始まりの匂いだ。パウダー、増量してもらってもよかったかな。そのままカップに口をつけようとした瞬間、クリームの下の熱いラテに毎年舌を火傷させられていることを思い出した。蓋を閉め、コンディメントバーから木のマドラーを持って来るとカップの中でぐるぐる回した。命拾いした。

f:id:creamsoda-c:20211105123925j:image
店内BGMはクリスマスソングメドレーだった。本を読んでいた私の意識を引き戻したのは、ジャズ風アレンジのウィンターワンダーランド、伴奏はピアノのみ。唐突に、ディズニーシーのニューヨーク・デリの店内が脳裏に蘇った。

アメリカン・ウォーターフロントのニューヨークエリアのクリスマスBGMは、20世紀初頭のNYを再現した街よろしくジャズ調がメインだ。音楽については詳しくはないけれど。同エリア内にあるレストランでも同じ曲が流れていて、スタバの店内の橙色寄りの照明と濃い茶色の木のテーブルが、その店の内装と似ていた。年パスを持ってパークに通っていた頃、私がそこに一人でいる時はたいてい16時頃にショーを見終わって一息ついている時だ。

厚手のコートとタイツで動かしにくい体と、暖かいけど嵩張るブランケット、それから一眼レフをまとめて引きずって店に入る。平日だとピーク時以外はカウンター席は一人分なら空いていることが多いから、そこにブランケットを置いてレジに並ぶ。昼でも夜でも酒は飲むが、ここぞとばかりに季節限定のホットカクテルやホットワインを注文する。外と店内の気温差と厚着のせいで顔が真っ赤になっているのを自覚しながら席に戻り、重たい荷物から解放されて飲む暖かい酒ほど冬に染みるものはない。東京湾から吹きすさぶ海風に縮こまり、ツリーを眺めながら飲むホットココアカクテルも同じくらい美味しかったけど。酒をちびちび飲みながら、その日撮ったショーの写真を見返してこっそりニヤニヤしたり、この写真は明日インスタに載せようか、と考えたり。


些細なことではあるけれど、五感に染み付いているあの空間と、ホットカクテルの中でじわじわ溶けていく氷砂糖のような穏やかな気持ちは、今となってはそう気軽に味わえるものではなくなってしまった。ご時世的にも、私の立場・環境的にも。

それでも、初冬のスタバのBGMとジンジャーの匂いで、あのときの欠片を掴めた気がした。

注文する時は毎回緊張してむしろ怖いまであるのに、これだからスタバは嫌いになれない。